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3D人体計測データを基にした研究をする山本高美教授からのメッセージを紹介します
服飾造形学科※の山本高美教授は、人体の3D計測データを基にして、洋服のパターン開発等に関する研究を行っています。
※服飾造形学科は生活環境学科として2026年4月開設
山本高美教授の研究内容について紹介します。
-適応的なゆとり量の個別型身頃原型の開発-
人体スキャンデータを左右対称化した個別型トルソーを使用し、人体の任意の部位に適応的にゆとりをもたせた身頃原型を開発することを目的とする。本研究の特長は、(1)任意の部位に適応的なゆとり量を設定可能、(2)開発した個別型トルソーを用いる、(3)1次元の寸法に替え、2次元の3角形を計測パラメタに用いる。身頃原型作成のため、トルソーを包む形状の3角形で構成されたポリゴンを作成した。ゆとり量の設定は、基準線および基準線に乗っている基準点をオフセットし、トルソーから離れた位置に移動させることで行った。試着評価として、身頃原型をシーチングで縫製し試着を行った。試着評価・アンケート結果とも、良い評価が得られ、原型の有効性が確認できた。
<目的>
本研究では、人体の任意の部位に適応的にゆとりをもたせた身頃原型を開発することを目的とする。
図1に適応的なゆとり量の個別型身頃原型開発のフローを示す。3Dスキャナ(浜松ホトニクス、ボディラインスキャナにより人体のポリゴンモデルを取得し、左右対称化、平滑化した個別トルソーを生成した。次に、個別トルソーを3角形で構成するポリゴンで包み、3D空間の3角形を2D-CAD上に並べて原型型紙を生成し、シーチングで縫製し試着評価を行った。

図1 適応的なゆとり量の個別型身頃原型開発のフロー
<方法>
原型作成のため、個別トルソーを包む形状の3角形で構成されたポリゴンを作成する。まず、対象となる個別トルソーデータを読み込み、プログラム内の仮想3D空間内に設置する。座標系は、矢状断面(sagittal section)に垂直な軸を x、水平断面(horizontal section)に垂直な軸をy、冠状断面(coronal section)に垂直な軸を z とする右手系の 3 次元直交座標系である。
(1)図2 Aのトルソーに示す基準線を引く
a:正中線(y=0の線)、b:シルエット線(個別トルソー正面から見たときに外形となる線)、およびc:バスト、d:ウエスト、e:肩甲骨線(肩甲骨凸部を通る線)、f:腋下線(腋下点を通る線)、g:脇線(前後腋線点の通る線)の各水平線に入れる。
(2)基準線上に下記基準点を設定
図2 Bに示すように、正中線上にh:フロントネックポイント、i:バックネックポイント。シルエット線上にj:サイドネックポイント、k:ショルダーポイント、l:腋下点、バスト線上にm:バスト点、肩甲骨線上にn:肩甲骨点(肩甲骨の突出した位置)、腋下線上にo:前腋点p:後腋点に設定する。
(3)ゆとり量の設定
基準線および基準線に乗っている基準点をオフセットし、個別トルソーから離れた位置に移動させ、ゆとり量を確保する。本研究ではバスト線に対し線長12cm、ウエスト線に対し線長6cm増えるよう、オフセットした。これは、文化式新原型成人女子と同じ量であるが、ゆとりの寸法変更は可能である。図3A(黒:実線)はゆとり大、バスト16cm、ウエスト10cm、図3 B(緑:点線)はゆとり中、バスト8cm、ウエスト5cm、図C(赤:二点鎖線)は、ゆとり最小バスト0cm、ウエスト0cm、としたものである。
(4)補助基準点の追加
各線上に3角形を形成するために必要な補助基準点を設置する。
(5)3角形ポリゴンの作成
基準点および補助基準点を直線で結び、3角形の平面で構成されるポリゴンを作成する。
(6)データの保存
作成した3角形の情報をファイルに保存する。

Aトルソーの基準ライン

B トルソーの基準点
図2 トルソーの基準ライン・点

A ゆとり大(黒) B ゆとり中(緑) C ゆとり小(赤)
図3異なるゆとり量の身頃原型
<結論>
人体スキャンデータの個別型トルソーを生成し、人体の任意の部位に適応的にゆとりをもたせた身頃原型を開発することを目的とした。
第一に、原型作成のため、個別トルソーを包む形状の3角形で構成されたポリゴンを作成した。対象となる個別トルソーデータを読み込み、プログラム内の仮想3D空間内に設置した。次に、基準線、基準点の設定を行った。
第二にゆとり量の設定は、基準線および基準線に乗っている基準点をオフセットし、個別トルソーから離れた位置に移動させ、ゆとり量を確保した。基本のゆとりとして、バスト線に対し線長12cm、ウエスト線に対し線長6cm増えるようにした。伸びの割合が少ない原型ほどトルソーにフィットしていると判断できる。2次元パラメタ(本研究)による原型は伸びの割合が均して小さく、ばらつきも小さい。したがって多くの体型に対して良好にフィットしていると判定した。1次元パラメタによる原型の結果は、平均値・ばらつき共に大きくなった。これは1次元採寸で不足する角度などの情報を標準的な体型の値で補完していることに対し、調査に使用したトルソーが標準体型外である割合が多かったためと考えられる。
第三に、原型をシーチングで縫製し、試着評価を行った。女性10名、男性2名であった。試着結果、アンケート結果とも、良い評価がえられ、原型の有効性が確認できた。また、アンケートからは修正すべき点も示された。
第四に、バーチャルフィッティングを原型の作成過程から行った。このことから、より良い原型が作成できたと考える。さらに、バーチャルフィッティングによる評価では、さまざまな体型に試着を行った。多くの体型にフィットし、原型の可能性が確認できた。
今後は、試着評価により指摘された原因を究明し、より良い身頃原型にしていきたい。さらに、ボトム用トルソーを作成し、ボトムのパターンの開発も行っていきたい。
本研究の一部は次の論文で紹介されました。
山本 高美、伊藤 智行、五十嵐 悠紀、中山 雅紀、鄭 姝、坂元 章、3D人体計測データを基にした適応的なゆとり量の個別型身頃原型の開発、日本繊維製品消費科学、Vol。65、No。7、 pp。490-499、2024。7。
服飾造形学科は生活環境学科として2026年4月開設
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