ジェンダー・ダイバーシティ研究所
基本理念
和洋女子大学は、1897年(明治30年)に堀越千代によって創設された「和洋裁縫女学院」をルーツとしています。明治維新を迎え、近代化をめざした日本は、1872年(明治5年)に学制を発布し、男女に関わりなく小学校への就学を義務付けましたが、小学校を卒業した後の進学の道筋は男女で異なっており、とりわけ女子の旧制官立大学への入学が制限されるなど、高等教育を受ける機会は、男子に比べて大変不利な状況がありました。戦前、男女間における教育機会の不平等が顕著であった時代において、本学の創始者である堀越千代は、西欧から伝わった洋裁や日本古来の和服の技術を身に付けることで、女性が社会の中で自立することをめざして、和洋裁縫女学院を創設しました。創立以来、建学の精神を受け継ぎ、和洋学園は自立し、社会に目を向け積極的に貢献しうる女性を教育し、家庭科教員をはじめとして優秀な女性たちを輩出してきました。
本学の教育理念のルーツをたどると、堀越千代が和洋裁縫女学院を創設した当時、すなわち女性が高等教育を受けることに大きな制限がかかっていた時代に、女性が最先端の技術と知識を携え自立して生きていくための実践的な教育を拓いたことは、非常に先駆的な側面をもっていたといえるでしょう。
一方、現代における“男女平等”理念の浸透とともに、女子大学や男女別学は時代遅れである、憲法(法律)違反ではないかという言説が一部で見受けられます。しかしながら、ジェンダー・ギャップが埋まらない現状において、学生たちがジェンダーによる制約から解放されて、自由にのびのびと学びや活動に没頭でき、リーダーシップを発揮できる女子大学は非常に価値ある存在であるといえます。とりわけ戦前、女性が学問を修めることに制約を受けていたこと、この歴史的な事実を後世に伝え、女性の権利の確保や行使を保障していくためにも女子大学の存在意義は高いと考えられます。
ジェンダー・ダイバーシティ研究所は、和洋女子大学の創立の理念とこれまでの日本の女子教育の歩みを基軸としながら、2024年4月、125周年の記念事業の一つとして設立されました。女子大学の使命ともいえるジェンダー格差の解消ならびに、性や障害をはじめとして多様な背景を持つ人々が抱える困難の解消を目指し、すべての人々が安心して社会参加や生活ができる共生社会の構築に向けて、研究・教育活動を行います。
活動計画
当研究所では以下のような活動を行います。
1 社会におけるジェンダー、ダイバーシティに関わる基礎的・実践的研究
2 本研究所と目的、趣旨を同じくする教育機関、および地域における機関との連携
3 研究会、講演会、研修会、シンポジウム、ワークショップなどの開催
4 研究と活動の成果物の出版および公開
5 その他研究員が必要と認めた事業
代表者挨拶
世界経済フォーラムによるジェンダーギャップランキング2025では、日本は148カ国中118位と低迷し、依然として男女間の格差が顕著に残存している現状が明らかとなっており、G7の中でも最下位と、ジェンダー平等の実現に世界から大きく立ち遅れています。
人々が社会の一員として生きていくうえで、すべての個人が平等に教育を受け、仕事や活動への参加ができる社会をめざさなければなりません。しかしながら、実際にはさまざまな社会的制約により、政治参画、教育機会享受、或いは就業などの社会参加が十分にできない状況が生まれています。ジェンダー・ギャップは、性の在り方により、社会参画に格差が生じている状況の表れと言えます。
社会的・文化的に形成されたジェンダーの典型としての「女性は家庭で家事・育児をするものだ」、「男性は外で働くものだ」という男女の役割分業観が、こうしたジェンダー・ギャップに大きく影響を及ぼしています。
現在、社会的関心を集めている、いわゆる年収の壁の議論では、手取り額に注目がいきがちですが、制度の根底にあるジェンダーが、「働き控え」をはじめとして女性の働き方や生き方に制約を与えてきたことを見逃してはならないと思います。
もちろん、人々に社会参加の制約をもたらすのはジェンダーだけではありません。障害の有無、エスニシティ(民族的背景)、経済状況、年齢など人々を取り巻くさまざまな要因は、複合的な差別を作り出すことになり、人々に社会参加の困難や生きづらさをもたらしています。たとえば日本では障害者権利条約を2014年に批准しましたが、障害のある人が、教育や就労などにおいて合理的配慮をきちんと受けられず、権利行使や自己実現が十分にできていない状況があります。
和洋女子大学ジェンダー・ダイバーシティ研究所は、ジェンダーや障害をはじめとするマイノリティの人たちの状況を多方面から複合的にとらえ、人々の人生や生活に制約をもたらす要因とその解決方法を模索します。そして、研究成果を教育活動や社会に還元し、女子大学の存続意義を社会に問いかけ、共生社会の構築をめざして研究を重ねていきます。みなさまからのご指導・ご鞭撻を心よりお待ち申し上げます。
ジェンダー・ダイバーシティ研究所 代表 田口久美子
構成員
代 表 田口久美子(特別研究員)
研究員 岸田宏司(家政福祉学部家政福祉学科/総合生活研究科総合生活専攻 教授/総合研究機構 代表)
研究員 奈良玲子(全学教育センター 准教授)
研究員 福原 充(全学教育センター 助手)
研究員 野澤和世(企画部長)
研究所ニュース
2025/06/13 「月経衛生デー(Menstrual Hygiene Day)イベントに参加しました」
2025/05/23 「ジェンダー・ダイバーシティ研究所の田口久美子氏監修の共著『女性のためのキャリアデザイン』が刊行されました」
2025/02/25 「3月3日(月)、『女子大学連携ネットワーク』第9回ミーティングを開催します」
2024/12/11 「ジェンダー・ダイバーシティ研究所の研究員が宮城学院女子大学で、情報交換会を行いました」
2024/11/20 「12月5日(木)、『更生保護~立ち直りを支えるしくみとは』講演会とボランティア活動説明会を開催します」
2024/10/01 「石巻市で行われた、田口久美子氏の講演の様子が石巻日日新聞に掲載されました」
2024/08/21 「9月10日(火)、「女子大学連携ネットワーク」第8回ミーティングを開催します」
2024/06/18 「ジェンダー・ダイバーシティ研究所の田口久美子特別研究員のコメントが『AERA』に掲載されました」
活動内容
(準備中)
研究アーカイブ
年報
研究論文
●奈良玲子・田口久美子・福原充(2025)「女性のキャリア形成に関する実態調査と課題―1都3県在住者へのWeb調査を通して」『和洋女子大学紀要』第66集, 和洋女子大学pp.59-70
著作
●『女性のためのキャリアデザイン-学びあい、ともにつくる社会の構築に向けて-』
(ISBN978-4-89641-336-6)/ 監修者:田口久美子 / 編者:奈良玲子・福原充 / 著者:沼田あや子・横山美和・ガルサンジグメド エンフゾル・佐野敦子・野澤和世 / 発行所:ムイスリ出版株式会社 / 2025年4月12日(初版)
【お問合せ】
ジェンダー・ダイバーシティ研究所
E-mail:igwwu(a)wayo.ac.jp
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