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市川駅南口図書館長によるオンライン・トーク「本が好き!を仕事にしよう」を開催しました

2023年2月13日、日本文学文化学科では市川駅南口図書館長の宮野源太郎氏をお招きし、「本が好き!を仕事にしよう 書店員を30年近くしていたら図書館長になっていました」と題した学生向けオンライン・トークを実施しました。このトークは、大学での学びや、その基盤にある一人ひとりのモチベーション(好きなこと、興味のあること)を、社会における具体的なキャリアへと結びつけていくために、ロールモデルとなる方々をお呼びし、実体験を語っていただく試みの一つです。和洋女子大学教育振興支援助成「文学と芸術を通じた地域社会参画型表現教育プログラム(SEREAL)」の活動の一環として、地域連携と学生のキャリア教育に資する目的で開催しました。

【写真】学生たちはZoomでオンライン参加しました 

和洋女子大学も様々なかたちで連携してきた市川駅南口図書館。地域では「駅南図書館」や「えきなん」の略称で親しまれています。今回のトークでは、「図書館と地域社会をつなげるために えきなんの挑戦」と、「本が好き!を仕事にする これまでの人生の道のり」という2つのテーマをお話しいただいたあと、学生たちが質問する「教えて宮野さん」の時間を設けました。
宮野館長は、図書館と地域社会とのつながり方について、さらには読書の楽しさを伝える場をつくることについて、さまざまなエピソードを交えつつお話しくださいました。そこからは、「出会い」、「双方向性・相互性」、そして「つながりをつくる」というキーワードが浮かび上がってきました。

トークの詳細はこちらから(クリックしてご覧ください)
1. 図書館と地域社会をつなげるために 「えきなん」の挑戦

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【写真】トーク中の宮野館長

――まず図書館長の日々のお仕事について教えてください。
宮野館長(以下敬称略):館長として、業務の統括という黒子的な役割、それから市の中央図書館とのやり取りや、館内イベントの企画・調整・進捗管理、新たな企画につなげるための地域の方々とのコミュニケーションなど、いわば裏方の仕事をやっています。駅前にあるので来館者も多く、本屋のような雰囲気の図書館です。

――駅南図書館に入るとまず目にとまるのが、日替わりのテーマに沿って、イラストとともに本数冊を取り上げる「おすすめ本」コーナーです。
宮野:ここで取り上げた本は、来館者に確実に借りてもらえます。このコーナーは図書館のFacebookページでも紹介しているので、「FBを見て来ました」という方もいます。日替わりテーマは前日の夕方に決めるので、けっこうたいへんです(笑) 「今日は何の日?」を調べ、取り上げる作家やテーマを決め、選書をして、イラスト担当の職員がホワイトボードにイラストを描きます。前日が非番だと、翌朝出勤してはじめて「今日のテーマ」を目にして、慌てることもよくあります(笑)

――日々のお仕事で心がけていることは何ですか?
宮野:先ほど「本屋のような雰囲気の図書館」と言いましたが、利用者一人ひとりの要望や、何を探しているのか、声を聞くようにしています。また、なによりも地域とどうつながるかを重視しています。さまざまなメディアに拡散している地域の情報を集めてつなげること、それを通して利用者がどのような「気づき」を得られるかを大事にしたいと思っています。

――「えきなん」は、地域とのつながりを重視し、和洋女子大学をはじめ、市川市の様々な組織や団体と連携した活動をされています。特徴的な事例をご紹介ください。また、宮野館長ご自身の発案で始めた企画があれば、ぜひ教えてください。
宮野:まず、図書館内に地域社会に開放したギャラリースペースを設け、地域の方々による絵画や写真作品、研究パネルなどを展示する場をつくりました。和洋女子大学服飾造形学科の卒業制作の写真パネルや、日本文学文化学科による「市川文学散歩」企画の「散歩マップ」なども展示しました。最近では、市川市在住の写真家の作品展「真間川流域-市川の四季・彩り」「市川写真家協会 アマ部門 IPPSクラブ写真展」「市川大野の梨園の四季を追う」など、地元のアーティストたちが活動発表する場にもなっています。

地域の学校とも、さまざまな連携を行っています。千葉商科大学の学生によるPBL(課題探究型学習)で「脱出ゲーム」企画を開催したり、小中学生を対象に「職場体験」を実施したり。もちろん、和洋女子大学との「市川文学散歩」プロジェクトもその一つです。また、秋の読書週間には、来館者に「私のおすすめの一冊」を寄せてもらい、リーフレットにして配布しています。皆のレコメンドを共有することで、もっと気楽に図書館に入ってきてもらうのが目的です。
新年には市川在住の音曲師をお呼びして「えきなん寄席」を催したり、最近は「駅南ウィキペディアタウン」を開いたりもしています。

――地域社会における地域図書館のミッションを、どのように捉えていますか? また、今後「えきなん」と地域社会をさらに繋げていくためにやりたいことを教えてください。
宮野:今は、情報を発信し受信するさまざまな場があります。しかし、地域の情報や歴史的な資料は、埋もれてしまいがちです。だからこそ、図書館を地域の情報と住民がつながるHUBにしたいと考えています。駅南が持つ膨大な紙媒体の資料、それからウェブサイトやFacebookなどオンラインの情報と、地域の市民をつなげたい。また、散らばっている情報を駅南が集め、地域の方々へと伝えていく役割もあります。また、「この本を読め」というのではなく、来館者に「気づき」を与えられる場でありたいと考えています。つまり、つなげることときっかけづくりが、駅南のミッションです。

また、市川にまつわる記録や記憶のアーカイヴズもつくりたいです。昨年(2022年)10月に、「駅南ウィキペディアタウン」を開催しました。資料集めのためにさまざまな方にご協力いただくなかで、「市川案内人の会」に参加しているシニアの方から、いろいろと面白い話を聞くことができました。かつて真間銀座通りにあった市川鈴本演芸場について、それから昭和20年代終わりごろの市川のことです。この証言は、音声データに残してあります。こういった個人的で小さな歴史の証言を、音声データや画像データも含めてアーカイヴィングし公開すれば、図書館に置かれている本と同じように、だれもがアクセスできるようになります。こういうオーラルヒストリーのアーカイヴズをつくることによって、地域への愛着が高まり、活性化にもつながると考えています。

2. 「本が好き!」を仕事にする これまでの人生の道のり

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【写真】トークは小澤京子教授とのインタヴュー形式で行いました 

――宮野さんは、図書館員になる前は書店員をされていたそうですね。そのときのお話をお伺いします。もともと本はお好きでしたか? 子供や学生のころには、どのような本を読んできましたか?
宮野:母が読書家で、いつも図書館で本を借りては読んでいる、読むものがなくなると家にある辞書を読んでいるような人でした。だから、小学生の頃は母に読書を勧められるのがかえって苦手でした。積極的に本を読むようになったのは、中学生になってからです。当時は詩、とくに谷川俊太郎『荒地』派などが好きでした。詩に惹かれたのは、「分からないことが面白い」からです。高校以降は、人文書を読み漁るようになりました。小説は、おもに純文学中心に読んでいました。

――その頃に読んでとくに感銘を受けたり、人生を変えるきっかけになったりした本はありますか?
宮野:村上春樹が訳していたティム・オブライエンの作品、それからドストエフスキーの『悪霊』です。とくに『悪霊』は、働き始めてからも何度も読み返してしまう一冊になりました。時代は違えども若い世代に響くものを感じます。当時、自分よりも年長の人たちは「団塊世代」や「しらけ世代」などと称されていましたが、私たちの世代を表す名づけがありませんでした。そんななか、1995年に地下鉄サリン事件が起きて、そこで逮捕されたのは自分と同世代の若者たちでした。それを見て、「自分達の世代はこれなのか!」という驚愕がありました。これらの文学作品は、そういう若い頃の感覚とも通じているように思います。

――書店員になったきっかけは何だったのですか?
宮野:学生の頃、スーパーマーケットでアルバイトをして楽しかったんです。自分で考えて売り場に商品を配置したり、お客さんとコミュニケーションを取ったり。お客さんたちとつながる場所って楽しいと思いました。それにくわえて本が好きだったということもあり、ならば本屋で働こうと考えて、滑り込みました(笑) 学生時代にも、三省堂で9ヶ月ほどアルバイトをしていました。

――書店での出会いや企画・イベントなどで、印象に残っているものを教えてください。
宮野ジル・ドゥルーズフェリックス・ガタリ千のプラトー邦訳が刊行されたとき(1994年)のことです。当時は郊外の住宅地にある大型スーパー内に入っている、小規模な書店に勤めていて、『千のプラトー』の入荷は一冊だけでした。700ページ弱ある分厚い哲学書で、当時でも7千円か8千円くらいしました。そんななか、常連の読書家のお客さんがやって来て、「これ積みなよ」と言うのです。おそるおそるあと3冊入荷したのですが、なんと一週間で売り切れてしまいました。哲学の知が、そこまで一般に浸透しているということに感銘を受けました。こんな感じで、知的な感性を持ったお客さんに教えてもらうのが楽しくて、書店員をやっていました。いま和洋女子大学と行っている「おすすめの一冊」POP企画でも、自分が読んだことのない本を教えてもらえるのが、とても楽しいです。店員がお客さんに一方的にお薦めするのではなく、双方向のやり取りこそが楽しいと感じていました。

その後、くまざわ書店やときわ書房、地元の小規模書店などを経て、2005年から丸善(現・丸善ジュンク堂書店)の丸の内本店に勤めました。このときに、松岡正剛氏と「松丸本舗」という企画を実施しました。編集工学研究所なども主宰する松岡氏は、まさに編集者の発想をする人でした。さまざまな情報をつなぎ変え、並べることで、新たな意味が生ずるというのが松丸本舗のコンセプトです。本棚や本の並び方は、松岡氏の思考を反映したもので、ひとつの小宇宙をつくっていました。

この松丸本舗では、松岡氏の考案した「目次読書法」という方法に基づいて、来場者で語り合うイベントも行いました。直感で面白そうな本を選び、目次だけを見て内容を妄想してみる、次に中身をパラパラと瞥見して、みなで語り合うというものです。「なんだか面白そうだ」という直感と、本との出会いを大切にするというところがポイントです。また、松岡氏は「本棚の並びを3冊ずつ、ずらしながら見てゆく」ということも提唱していました。そうすることで、本の並べ方がもつ意味が見えてくると。つながりから生まれる意味を、松岡氏も松丸本舗も重視していました。

――「思考の結合術・連結術」ですね。本と本、本と人、人と人との関係が、書店の売り場という空間を介して新たに生まれ、拡がっていくところがすごく面白いです。「三体問題」というものもあるそうですが、「3」というのは関係がダイナミックに変わる数字ですね。
宮野:まさに、人と人、本と本、言葉と言葉をつなぐ術でした。また、丸善丸の内本店にいた頃には、『日経流通新聞』(現『日経MJ』)や『週刊ダイヤモンド』から依頼を受けて、書評やお薦めの本を連載していました。ビジネスパーソン向けのメディアですが、ビジネス書ばかりではつまらないので、プラスアルファをかならずつけ加えるようにしていました。

――書店員から図書館員に転身するきっかけは何だったのですか?
宮野:松丸本舗は3年で終了し、そのあと営業本部に異動しました。店舗にその地域のお客さんがやって来る、本棚があって本が並んでいるという場が楽しくてやってきたので、デスクワーク中心の部局は違うなと思い、退職することにしました。

その後、半年ほど職業訓練としてウェブデザインを学び、課題としてウェブサイトを制作することになりました。そこで、図書館の本をレコメンドするサイトを作ってみたんです。ちょうどコンセプト重視の小さなブックショップが増えていた頃です。また、2010年に出たブックビジネス2.0のような本も、古本で買って読んでいました。そのときに、情報のHUB、とくにさまざまな人たちのお薦め本情報のHUBとしての図書館の可能性に気づきました。書店と同じことが、図書館でもできると。その後、公立図書館の指定管理や業務の受託を行っている企業の求人を見つけ、採用されて図書館に勤めることになりました。まず文京区の本郷図書館に勤務し、そのあと駅南図書館にやって来ました。司書の資格を取ったのは、実はそれからなんです。

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【写真】トークは、駅南図書館のウェブサイトやFacebookページに掲載されているイベント情報や館内展示なども共有しながら進みました 

3. 学生たちから質問

質問者1:最初の書店には、どういう経緯で「滑り込んだ」のですか?
宮野:地元に店舗のあった書店で、普通に履歴書を送って採用されました。

質問者2:面白い本をみつける方法を教えてください。
宮野:本屋に出かけて2〜3時間くらいうろうろします。新刊の棚をぼーっと見たり。気になる本があったら、目次をバーッと見て、良さそうだったら買います。もちろん新刊広告なども見ますが、やはり出会いの場は本屋で、行くとなにか買ってしまいますね。

質問者3:今後図書館でやりたいことは何ですか?
宮野:読書会を開きたいですね。よくあるような、ファシリテーターがいて「この本を読め」というのではないもの。読書離れなどといわれる中高生も、実は本を読みたがっているのではないかと思います。毎日SNSなどでたくさんのテクストを読んでいるのですから。そういう「本を読みたい」気持ちを引き出せればと思います。また、若い人たちには「これなんで?」という問いを立てる勇気が必要だと思っています。最近よく言われる「課題解決能力」や「論理的思考能力」などの基盤にあるのは、問いを立てることだからです。それを後押しできる場をつくりたいです。

質問者4:本学の学生たちにぜひ伝えたいことがあればお願いします。
宮野:いま、和洋女子大学の学生さんと「中高生にすすめる一冊(第2弾)」のPOP企画が進行中です。わたくしごととして、自分はこの本をこう読んだ」というのが伝わるような、見るひとへと語りかけるようなPOPになるとよいと思います。

――宮野館長、本日はどうもありがとうございました。

 

和洋女子大学 日本文学文化学科は次の3つの専攻から成り立っています
日本文学専攻の学びについてはこちらから
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文化芸術専攻の学びについてはこちらから
千葉テレビで放送された、日本文学文化学科の紹介動画はこちらから

 

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