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【教員】国際学科の板垣武尊助教によるカンボジア調査レポート「観光は何を変えるか」

和洋女子大学の国際学科では、国際的教養と高い語学力・国際コミュニケーション能力を身につけながら、国際交流や観光に関する知識と技術を学んでいくカリキュラムを用意し、航空、旅行、観光、国際ビジネスなど幅広い分野で活躍できる人材育成をめざしています。

今回は、観光学・地理学を専門分野とし、バックパッカーの行動やエンクレーブに関する研究に取り組んでいる板垣武尊助教のカンボジアでの調査レポートを紹介します。

<板垣助教プロフィール>

専門分野:観光学・地理学
研究テーマ:バックパッカーの観光について、中国や東南アジアをフィールドに研究しています。これまで、バックパッカー向けの宿泊施設やバックパッカーの移動ルートがどのように変化してきたのかについて、旅行スタイルやICTの変化に注目して研究してきました。カンボジアのシアヌークビルでは、バックパッカーの観光だけでなく、中国人観光客や国内観光客との棲み分けについても研究しています。
担当科目:異文化交流と観光、観光文化と地理、国際異文化理解論など

<板垣助教による調査レポート>

2022年12月〜2023年1月と2023年2月に、カンボジアのシアヌークビルで現地調査を実施しました。シアヌークビルはカンボジア随一の海浜リゾートで、本土や沖合にあるロン島とロンサレム島には美しいビーチがあります。    
かつてバックパッカーの楽園と呼ばれていたこの街は、ここ数年で大きく変貌しました。2008年から中国の経済特区の開発が始まり、2017年頃からは中国政府が進める「一帯一路」の拠点として開発ラッシュが加速しました。街中には中国語が溢れ、ネオンが煌びやかなカジノホテルが乱立するようになりました。それに伴い、治安が悪くなったというニュースも流れてきました。一方で、街中が工事現場となると、まるで喧騒を避けるように、バックパッカーたちはロン島やロンサレム島の小さなビーチに移動しました。さらに両島には国内外の資本による高級リゾートホテルも増加し、国内外の富裕層が訪れる島へと変化しつつありました。

【写真】ロン島の誰もいないビーチLong Beach

【写真】ロンサレム島のバックパッカーが集まる地区M-Pai Bay  

しかし、2020年以降のコロナ禍は、シアヌークビルにも暗い影を落としました。2022年の秋頃までは海外からの観光客はほとんどおらず、中心部や海岸通り沿いには休業・閉業・建設途中のホテルが放置された廃墟群が残存しています。他方、コロナ禍で、シアヌークビルの郊外に国内観光客向けの新しい観光エリアが誕生しました。それは、市街地と空港を結ぶ道路です。一見ただの変哲もない舗装道路ですが、いつ行っても国内の観光客で賑わっていました。特に、高台にある「ខ្មែរធ្វើបានクメール(カンボジア)はできる」とクメール語(カンボジアの公用語)で書かれたシアヌークビル版“ハリウッドサイン”というべきモニュメントには、多くの国内観光客が集まります。また、道路建設の際に持続可能な開発の名目で残された「愛の木」や、2022年にラウンドアバウトの中心に設置された扶南国の初代君主プレア・トン(カウンディンヤ)と女王ネアン・ニーク(ソーマ)の像も、国内観光客にとって人気の撮影スポットです。若いカンボジア人が起業したBROWN COFFEEでコーヒーを買って、新道にできたモニュメントで写真を撮ってFacebookに載せるというのが国内観光客の代表的な旅行パターンです。

【写真】ロン島の高級リゾートホテルのビーチSok San Beach  

シアヌークビルの街中

【写真】看板にはクメール語と中国語が書かれている

【写真】香港資本が経営するカジノホテル

【写真】海岸通り沿いの休業・閉業・建設途中のホテル群

【写真】中心部の休業・閉業・建設途中のホテル群

さて、シアヌークビルを変化させた主体は何でしょうか。一見すると、資本の論理に翻弄された街のように見えます。外部資本が観光開発をして、外部から来た観光客が消費し、世界的な現象であるコロナで経済が疲弊するというという、世界システムに組み込まれた典型的な事例とも言えなくもありません。また、バックパッカー向けのゲストハウスがロン島とロンサレム島へ移転した要因として、インターネットやオンライン予約サイトの発展によって容易に集客できるようになったということも指摘できるでしょう。ヒッピーのような見た目をしている筋金入りの旅人たちでも、スマートフォンによる支配から逃れることはできないのですから。

国内観光客向けの新たな観光スポット

【写真】ខ្មែរធ្វើបានクメール(カンボジア)はできる

【写真】愛の木

【写真】扶南国の初代君主プレア・トン (カウンディンヤ)と女王ネアン・ニーク(ソーマ)の像

一方で、国内観光客向けの観光スポットが誕生した要因はなんでしょうか。なぜ、新しい道路が開通して記念のモニュメントが置かれただけで、これほどまでに人気の観光スポットとなったのでしょうか。この道路の完成に際して、フン・セン首相はこのようなスピーチをしています。

この道路は我が国の誇りの源であり、そのため私は、"カンボジア人はできる "と言っているのです。 〜中略〜 シアヌークビルの開発だけを指しているのではありません。カンボジア人は、もう何千年も前からできるのです。カンボジア人は国中に寺院を建て、代表的なものはアンコールワット、プレアビヒア、サンボール・プレイ・クック、コ・ケーなどです。どこにでも寺院はある。私たちクメール人にはそれができるのです。

この言葉の意味するところは、外部資本が残していった廃墟の風景と対比することで、より深く理解できるようになります。1953年の独立以降、40年間で5回も国名が変わったこの国では、多くの人々の血と涙が流されました。このように観光とは、地域経済に大きな影響を及ぼす産業である一方で、国民の誇りやアイデンティティーを醸成する装置でもあるのです。

*写真は全て板垣助教が撮影したものです。
*この出張は、日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤(B)「スマート・ツーリズムにみる観光の変容」(課題番号:19H04384)の補助を受けています。

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