メニュー 閉じる

トピックス

大学院

和洋女子大学大学院 総合生活研究科論文博士取得者インタビュー

坂ノ下 典正さんは、今年の9月に和洋女子大学大学院 総合生活研究科の学位を授与されました。今回は、経歴や論文内容、和洋女子大学大学院での審査の感想などをインタビューしました。

【プロフィール】
氏名:坂ノ下 典正さん
取得年度:2021年9月
経歴:2001年3月に神戸大学大学院自然科学研究科生物環境制御学専攻修了。
2001年4月に株式会社ロッテに入社し、中央研究所配属。基礎研究部門で19年勤務し、チューインガム、キャンディ、チョコレート、ビスケット、アイスクリームなどの菓子製品全般の成分分析や、物性・テクスチャーの評価、現場での生産性向上に関する仕事に従事。また、チューインガムが噛み続けられる食品であることより、「噛むこと」の効用に関して研究し、啓発する業務を担当。
2020年4月より広報部(現コーポレートコミュニケーション部)の渉外課へ異動し、官公庁や地方自治体、歯科医師会との渉外業務に加え、今までの研究者の先生方とのリレーションを生かしつつ、啓発活動にも従事。
咀嚼に関する情報発信サイトの「噛むこと研究室」の運営も担当。

■執筆した論文タイトルと内容を教えてください
論文タイトル:『チューインガムの咀嚼とその普及のための検証研究』
内容: チューインガム咀嚼の効用は現在多くの研究者により検証されていて、継続的にチューインガムを噛むことによって、咬合力や舌圧、唾液分泌量など、口腔機能が向上することが認められています。他に、記憶や作業効率の向上、インスリンやGLP-1など血糖応答因子に対するポジティブな効果、ストレス低減など、QOL向上ツールとしての検証結果が多数報告されています。チューインガムの咀嚼について普及させ、生活者の方々に有用性を啓発するため、解決すべき4つの項目について検証を行いました(解決すべき4つの項目についての研究内容に関しては、この記事の下部に要約を記載します)。

■学位の取得までに要した期間を教えてください
柳澤幸江教授と共同研究で発表したチューインガム付着性評価方法の論文の学会誌掲載が2006年で、それをスタートとして合計7報の学術論文をまとめ上げて博士論文にしました。昔の論文の文章や図表の修正や、引用文献の読み込み、データの再確認などもあり、提出する博士論文をまとめるのに結局1年近く時間がかかってしまいました。


【写真】学位記授与の様子

■なぜ、和洋女子大学大学院で学位取得をしようと考えたのか、きっかけなど教えてください
今回の博士論文で編纂した学術論文において、テルペン樹脂分析法とストレス低減効果検証を除き、チューインガムの付着性研究と咀嚼回数の検証に関する、学術論文5報分の研究成果は、 指導担当教員である柳澤幸江教授との共同研究で実施したものです。長年にわたりご指導いただいた柳澤先生には感謝ばかりで全く頭が上がりません。
この度は、和洋女子大学で論文博士の制度が有るのでチャンジしてはどうかと、柳澤先生にお声がけいただき、学位取得に至りました。環境をご用意いただき、本当に有難うございます。


【写真】記念撮影:左から指導担当の柳澤先生、坂ノ下さん、岸田学長、金子副学長

■和洋女子大学大学院 総合生活研究科での審査の過程で学んだ感想を教えてください
指導教員を務めていただいた、柳澤先生をはじめ、主査の中島肇先生、副査の熊谷優子先生、鬘谷要先生、皆様がオープンマインドで、優しく親身に寄り添っていただき、尊敬できる方々ばかりでした。本当に素晴らしい先生方で、お会いできて良かったと感じています。中島先生と鬘谷先生は企業のご経験、熊谷先生は厚生労働省でお勤めだったこともあり、企業に勤めながら博士論文を作成していく私の環境にご理解いただき、とても協力的で、論文完成や公聴会のプレゼン方法まで的確な指導をいただきつつも常に応援していただきました。感謝しかございません。

各教員の一覧ページはこちらから

■今後のご自身の目標などありましたら教えてください。
論文博士を編纂することによって、今まで自分の経験してきた研究について、体系的に思いだし、整理することができました。参考文献のリストアップができて、自分のライブラリーが整理出来たことも大きかったです。これらの経験を生かして、体系的に物事を考えて、俯瞰した大きな目を持って、研究成果や啓発につなげていけるように仕事をしていきたいと考えています。
加えまして、博士論文については、企業に務めながらの執筆ということもあり、この1年ほどは休日返上の連続でしたので、仕事と論文以外はあまり何も出来なかったというのが現状です。個人的には、少し疎かになっていた音楽製作にも時間を戻していきたいなと思っています。手前味噌にはなりますが、日本咀嚼学会の公式イメージソングで、作詞が新潟大学歯学部の小野高裕教授で、新潟・古町を中心に活動するRYUTistの皆様に歌っていただいた「Chewing Happiness(そしゃくの歌)」では、作曲、録音、編集、エンジニアリングを担当しています。ご興味がありましたら、リンクからお聴きください。

------------------

下記は、先述した「チューインガムの咀嚼について普及させ、生活者の方々に有用性を啓発するため、解決すべき4つの項目について検証」の要約紹介です。

①チューインガム咀嚼回数の検証
チューインガムの咀嚼回数について、検証している先行研究がなかったため、他の食品と比較してチューインガムがどれくらい咀嚼回数に関して異なっているか、数値でお知らせすることができませんでした。そこで、チューインガムを含めた56品目の食品について咀嚼回数を評価し、10ランクの咀嚼回数表として編纂しました。他の食品と比較して、チューインガムの咀嚼回数は明らかに多い結果となり、5分で約430回,10分間で約870回となりました。

②外国産チューインガム中のテルペン樹脂の分析
外国産チューインガムでは、チューインガムの基材のガムベース(噛み続けられる部分)の材料として、オレンジの皮や松脂を原料として作られるテルペン樹脂の使用が認められていますが、日本では食品衛生法において未認可です。そこで、国内に輸入される外国産チューインガムにテルペン樹脂が含まれているか確認する手法を検討しました。有機溶媒による抽出とLC/MSおよびFT-IRを用いた分析によって、チューインガム中のテルペン樹脂を検出・確認する方法を確立しました。

③チューインガムの付着性に関する研究
チューインガムは義歯、特にレジン系材料に付着しやすい性質がありますが、ガムベースの配合を工夫することにより義歯につきにくく、お口の衰えが気になる高齢者の方々でも安心して噛むことができます。チューインガムの付着性を評価して、開発されたガムがしっかりと「低付着性」かどうか確認するため、機器分析による精度の高い評価方法を確立しました。低付着性品質のチューインガムは、機器分析による評価、官能評価の両面で、一般的なチューインガムと比較して付着性が低いことが確認されました。

④チューインガムのストレス低減効果検証
対面で働いている346名の三越伊勢丹の従業員の方々の協力を得て、1日4回、6週間のチューインガム継続摂取による検証を行いました。その結果、HADS尺度および職業性ストレスアンケート双方で、チューインガムのストレス低減効果が確認されました。

チューインガムが噛むことのツールとして安心して日常的に活用され、生活者の方々の咀嚼回数が増え、それに伴い、皆様のQOLが向上されることを願っています。

------------------

今回インタビューにご協力いただいた坂ノ下さん、論文博士の取得おめでとうございます。今後の益々のご活躍を心よりお祈りしております。

<総合生活研究科について>
和洋女子大学大学院 総合生活研究科では各専門領域での研究を学ぶ他、研究・教育現場や企業で活躍している社会人の方のスキルを体系化するための研究の場としての役割を果たすこともめざしています。家庭科教諭として活躍されている方はスキルアップとして家庭科の専修免許状を取得することができます。管理栄養士の高度専門教育の場としては、現場での実践経験の豊富な医師や管理栄養士による研究と教育を充実させています。

和洋女子大学大学院 総合生活研究科の学びについてはこちらから
総合生活研究科教員プロフィールはこちらから