キーワードで学ぶ国際観光確定版

17 観光の国際政治学 近年、観光のための人の国境を超えた移動が急増している。国連世界観光機 関(UNWTO)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)といった国際機構を中心にし た国際協力も深まっている。他方で、観光地におけるテロや世界遺産の登録を めぐる各国間の対立など、観光に関わる分野における「政治」が顕在化するよ うになった。最近でも、徴用工問題に端を発する日韓対立で2019 年後半以降韓 国からの訪日旅行者が半減し、日本の観光産業に打撃を与えている。しかし従 来の国際政治学では、そのような観光が関わる問題は取り上げられてこなかっ た。背景には、国際政治学が今なお安全保障など「ハイ・ポリティクス」に注 目していることが挙げられる。しかし、日本やフランスなど先進国でも観光は 基幹産業の一つとして重点が置かれるようになり、途上国も観光開発に力を入 れている。増え続ける外国人観光客も、観光を通じて世界観を変えつつある。 観光に関わる国際政治の現象は軽視することはできない。 そこで、国際政治学(国際関係論)の一般的な複数の視座から、観光現象の 国際政治的側面でいくつか注目すべき点を導くと、現実主義の視点からは、国 家間のパワーや権力政治が国際制度の形成や運営を含めた国際関係全般に反映 されると考えられる。自由主義の視点からは、機能主義的な国際協力の進展を 予測する一方で、国内の政治体制の差異や国内政治過程の影響が重視される。 構築主義的な視点からは、ソフトパワー含む規範や価値が与える影響が重視さ れる。観光をめぐる国際政治の分析においては、それらの視座から導かれる要 因がどの程度、またどのようにかかわってくるかに注目することになる。 【参照項目】国連世界観光機関(UNWTO)、ソフトパワーと観光、プレアビヒア寺院遺跡とタイ・ カンボジア国境紛争、日韓対立と訪日観光客の減少、明治日本の産業革命遺産をめぐる日韓 対立 【参考文献】①初瀬龍平(2012)国際関係のイメージ:なにを、どのように見るか.初瀬龍平 著『国際関係論入門』法律文化社.p1-13.②杉浦功一(2018)世界遺産をめぐる国際政治― 『観光の国際政治学』へ向けて.和洋女子大学紀要.59,p23-34. (杉浦功一)

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