キーワードで学ぶ国際観光確定版

14 「メディア– 社会」論と観光 メディア論ではメディアの発展ないしその機能の変化について通文化的パ ースペクティブが重視され、それにより例えば活字メディアの近代国家形成へ の積極的な影響やネットメディアの民主化への促進作用といった主張がなされ る傾向があるが、しかし、メディアの社会・文化内在的存在の性格は否定でき ないものであり、したがってそのような視点によってはじめて社会現象の本質 が捉えられるといえよう。このような立場を「メディア– 社会」論とする。 この観点から観光メディア論で重要な位置を占めている「メディア誘発型観 光」について分析を加えてみよう。「メディア誘発型観光」とは映画、テレビド ラマ、アニメ、漫画、ゲーム、絵画、音楽などに触発されて行われる観光のこ とで、この場合これらのメディアは「自律的で自己完結なメディア」 [中谷、 2010] とされ、「自発的イメージ形成」 [鈴木、2009]をもたらすとされる。しかしこ れらのメディアも少なくとも「知」・「象徴」の秩序からなる社会体系内的存在 である以上、ここにおける「自律」、「自己完結」、「自発」などは更なる分析が 必要となる。 ここではその分析の単純な例として「メディア誘発型観光」とされるものの 中には〈メディア誘発型観光〉 (送り手〔提示者〕には観光行為を引き起こす意 図はなく、受け手〔解読・解釈者〕が自発的に観光行為を起こす場合の観光)、 〈メディア誘導型観光〉 (送り手〔提示者〕に観光行為を引き起こす意図がある が、受け手〔解読・解釈者〕はその意図を認識せずに自発的に観光行為を起こ す場合の観光)、 〈メディア動員型観光〉 (送り手〔提示者〕に観光行為を引き起 こす意図があり、受け手〔解読・解釈者〕はその意図を認識しながら観光行為 を起こす場合の観光)などが含まれる可能性があることを指摘しておく。 【参照項目】プロダクト・プレイスメントと『狙った恋の落とし方2』 【参考文献】①中谷哲弥(2010)フィルム・ツーリズムにおける『観光地イメージ』の構築 と観光経験.遠藤英樹,堀野正人編著『観光社会学のアクチュアリティ』晃洋書房.p125‒144. ②鈴木晃志郎(2009)メディア誘発型観光の研究動向と課題.日本観光研究学会全国大会学術 論文集.24,p85-88. (里正明伍)

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