キーワードで学ぶ国際観光確定版

13 聖・俗・遊と観光の持続可能性 環境問題や資源問題に対する危機感から生まれた「持続可能性」 (sustainability)の概念は今日世界的に重要な準則となっている。この概念 は「持続可能な発展」(Sustainable Development)の方向性として具体化され ることが多いが、「発展」とは距離を置く「持続」に力点が置かれることもある。 そしてこの概念は観光分野にも持ち込まれ、「持続可能な観光」(Sustainable Tourism)という形で議論されることとなった。具体的には環境・生態系の破壊 や地域社会の混乱などをもたらしたマス・ツーリズムに代わる観光の模索とし て唱えられたオールタナティブ・ツーリズム(Alternative Tourism)の概念の 明確化という形で「持続可能な観光」が語られるようになったのである。しか しこの「持続可能な観光」が実質的にマス・ツーリズムを支えてきた社会シス テムに寄与しているという事実も広く見られ、それにより「観光」そのものが 歪められるおそれもある。 それでは本来の観光の持続可能性をどのように捉えるべきであろうか。この 問題を考える上で「聖・俗・遊」の概念は重要な視点を提供してくれる。デュ ルケーム(『宗教生活の原初形態』)、ホイジンガ(『ホモ・ルーデンス』)、カイ ヨワ(『遊びと人間』)などの議論を踏まえていうならばわれわれ人間は日常 (俗) の秩序の空間の他に、超越的な力(聖)による空間、遊び(遊)の世界などに 身を置くことがあるということになるが、これらはそれぞれ「帰依・帰属」を ベースとした「使命・道徳」感による行動、手段としての行動、行動それ自体 から楽しさを覚えるような行動、などを中心に構成されるといえる。「観光」と いう行動は遊(ないし聖)と親和性を持つことはいうまでもない。したがって、 このような本来の観光−―遊(ないし聖)的観光−―の持続には、形式上の観光 を持続させる物的基盤の持続と同時に、観光の内実の面でも本来の性格を維持 させる仕組みが必要となる。 【参照項目】「海南観光」、世界観光倫理憲章、「紅色旅遊」(レッド・ツーリズム) 【参考文献】①ロジェ カイヨワ著 多田道太郎,塚崎幹夫訳(1990)『遊びと人間』講談社. ②井上俊(1973)『遊びの社会学』世界思想社. (里正明伍)

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