キーワードで学ぶ国際観光確定版

10 観光行動論 観光行動論は、観光者の行動を解明する研究分野である。観光者の動機や欲 求を解明するための重要な枠組みとして、発動要因(push factor)と誘引要因 (pull factor)が挙げられる。発動要因とは、旅行という行動を人に起こさせる 個人的要因のことであり、旅先での経験を求める新奇性欲求、休養やリラクゼ ーションを求める逃避欲求などがある。誘引要因とは、人をある特定の場所に 向かわせる要因であり、美しい自然の情景や魅力的な娯楽施設などが、人にそ の場所に行ってみたいという欲求を起こさせる。通常、発動要因によって旅行 をすることが決まり、誘引要因によってどこにいくのかが決まる。しかし、近 年のSNS メディアの発展によって、先に旅行先の視覚情報が目に入ることで誘 引欲求を刺激し、その後に旅行することが決まることもある。 観光者の移動・流動に関する研究方法は様々である。まず、国家や自治体な どが作成した入り込み客数などの統計資料を分析する方法がある。これは大ま かな傾向を把握するのには適しているが、 詳細的な行動の把握は難しい。次に、 インタビューやアンケート調査が挙げられる。詳細なデータは入手できるが、 多くのサンプルが必要になるため、それなりの時間と労力が必要とされる。さ らに近年では、スマートフォンのアプリの使用状況などから抽出されるビック データを解析した研究が増加している。これによって、「いつ」、「誰が」、「どこ に」いたのかが、容易に分析できるようになった。一方で、観光者の生の声は わからないので、なぜそのような観光行動をしているのかという点は解明でき ない。このように、観光者の移動・流動に関する研究方法にはそれぞれ長所と 短所がある。したがって、どのような方法論を採用するのかについては個々の 判断に委ねられており、多様なアプローチが求められているのである。 【参照項目】 バックパッカー、観光における交通 【参考文献】 橋本俊哉(2013)『観光行動論(観光学全集 第4 巻)』原書房. (板垣武尊)

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