34近年、2024年ほどジェンダー問題が単なる政策課題ではなく、社会の価値観そのものにかかわるテーマであることを再確認させられた年はなかったのではないだろうか。その最たる例がアメリカ大統領選である。民主党の有力な女性候補であったカマラ・ハリス氏と現職のドナルド・トランプ大統領の一騎打ちとなったのだが、2016年の大統領選で当時の共和党候補のトランプ氏に敗れたヒラリー・クリントン氏が言及した「ガラスの天井」を打ち破るには至らなかった。確かに、2期目を目指したトランプ氏が掲げたアメリカ第一主義、経済・移民政策は多くの有権者の支持を集め、大きな期待を生んだことであろう。しかし、民主党の有力な女性候補であったハリス氏のアメリカ大統領選への立候補もまた、初のアフリカ系・アジア系副大統領として歴史的な意義を持ち、女性として従来の政治の枠組みを超える存在になり得る資質を十分に備えていたことはいうまでもない。2016年当時、クリントン氏は「私たちは、いまだに最も高く、最も固いガラスの天井を打ち破ることができなかった。でも、いつの日か誰かがそれを打ち破るでしょう。それが思ったより早く訪れることを願っている」と言及したことは記憶に新しい。ハリス氏が、ガラスの天井に大きな亀裂を入れたことに違いはない。しかし結果として再びアメリカは女性を大統領には選ばなかったのである。ドイツ初の女性首相として欧州政治において卓越したリーダーシップを発揮したアンゲラ・メルケル氏をはじめ世界では女性リーダーの活躍が珍しいものではなくなりつつある。しかし、2024年のアメリカ大統領選は、依然として政治の場におけるジェンダー障壁が完全には取り払われていない現実を示すとともに、社会全体の縮図として、男性中心の権力構造の変革がなお道半ばであることを象徴したといえるだろう。2024年、アメリカは再び「最も有力な女性候補が敗れる」という歴史を繰り返した。こうした出来事は、各国におけるジェンダー平等の現状を再考する契機にもなったのではないだろうか。一方で、日本のジェンダー問題も様々な局面を迎える一年であった。その一つが、世界経済フォーラムが発表した「146か国中118位」というジェンダー・ギャップ指数である。日本は先進国の中でも最低レベルに位置している。特に政治、経済の2分野においては著しい女性進出の遅れが指摘されている。これは、2024年10月に発足した新政権の女性官僚の人数にも表れており、全20名中女性はわずか2024年度のジェンダー問題をふまえた社会動向をふりかえって
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