15男女平等が明記された日本国憲法が公布されてからおよそ80年がたとうとしている。果たして日本は男女平等になったのか。この問いに答えるには多方面からの吟味が必要であるが、当Articleでは学校教育の男女平等について雑感をしたためることにしたい。学校教育をとりあげるのは、義務教育段階ではすべての子どもたちが教育を受ける権利を保障されていること、中学校を卒業した後も、高等学校等への進学率が9割を超えていることをふまえ、多くの子どもたちが学校で教育を受けること、そしてその影響力が大きいことから、学校教育での男女平等を考えることは、日本の男女平等の進み具合を計るうえで試金石になると考えたからである。子どもたちが毎日、学校で見聞したこと、学んだこと、体験したことは、長い年月を経ながら自己の認識をはじめとした多様な力として高められ、個々の人格に涵養されていく。人格に涵養される力の内実は、いかなる学力が身についたかにとどまらず多様である。自分はどのような知識や技術を身に着け、どのような道を歩んでいくのか、という自己のキャリア形成の過程においても、学校でのさまざまな体験や経験が、学校外での家庭の影響や地域での経験と折り合わされながら、人格形成に影響を及ぼす。学校での教育が子どもたちのキャリア(どんな仕事に就くのかを含めて広い意味での“生き方”をさす)形成にいかなる影響をもたらすかを考えるうえで、学習指導や進路指導は非常に重要である。学習指導においては、教科がいかなる目標を持ち、目標に沿っていかなる準備がされ、教材がつくられ、そして実際に教授されるのか、というプロセスを経る。そして、実際の教科指導においては、教師側の要因(教授方法をはじめとして、教員のパーソナリティや価値観など多くを含む)、生徒側(学力的な要因や積極的か消極的かというパーソナリティ要因など多くを含む)の要因、学習内容、物理的な環境要因など、さまざまな要因を背景としながら、学力が陶冶されていく。最近明らかにされた学力と性に関する知見を紹介する。文部科学省では、2007年から小学校6年生と中学校3年生を対象として、学力・学習状況調査を行い、結果を公表してきた。従来、性別の結果は公表されてこなかったが、データ貸与制度を用いて2022年度の結果を分析した九州大学の河野銀子教授らによって、中学3年生の数学と理科の正答率に男女の差はなかったという結果が公表されたのである(2025年2月25日配信、神戸新聞NEXT:中3の理数学力に男女差なし 思い込みが進学にも影響か*)。しかも数学や理科を好きと答えた割合は、ともに10ポイント以上男子の方が高く、理数系の授業内容の理解度や生活への活用への意識も男子が高かったのである。Short Article3学校教育は男女平等か?
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